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長野市庁舎のRC外壁にひび割れ
 外壁に686本のひび割れが見つかった長野市第一庁舎・芸術館。免震ゴム交換工事のジャッキアップが、適切だったかを疑う声が上がっている。構造家の梅沢良三氏は「コンクリートの乾燥収縮が原因」と断言する。

 2015年11月に完成した長野市第一庁舎・芸術館は、打ち放しコンクリートの壁面を基調としたデザインが特徴だ。しかし17年3月3日現在では、その大部分が工事用のシートで覆われている。外壁に発生したひび割れを補修するためだ。
 長野市総務部は2月18日、「免震装置交換後ひび」と毎日新聞が報じたことを受けて「コンクリートの外壁に幅0.3mmのひびが11カ所で確認された」と市議会議員に報告書を配布した。しかし、2月21日付の施工者による調査報告書で、0.2mm以上0.3mm未満のひび割れが674本、0.3mm以上が12本見つかったことが明らかになった。

 長野市は3月2日の市議会で、ひび割れの発生について、「現在までのところ、不正常な事態、異常な事態とは考えていない」と説明している。
 地下2階・地上8階建ての複合施設である市第一庁舎・芸術館は、槇総合計画事務所・長野設計協同組合共同企業体(JV)が設計を手掛けた。東洋ゴム工業が不正に大臣認定を取得していた高減衰積層ゴム支承を90基使用していた。免震偽装問題の発覚後、全てをブリヂストン製に取り換えた。
 交換工事を施工したのは建設を担った2つのJVだ。第1工区(芸術館側)は前田建設工業・飯島建設JV、第2工区(第一庁舎側)は北野建設・千広建設・鹿熊組JVが担当した。交換工事は15年8月に開始して16年3月に終了した。同年6月の市議会総務委員会では、「0.3mmのひび割れが5カ所」と説明されていた。
 外壁のひび割れは、隙間に樹脂を注入する補修で対応している。ひび割れ幅が比較的小さな箇所は、はっ水剤を塗布するなどの手立てを打った。外壁を目視した限りでは、補修跡は目立たない。
 しかし、ひび割れの発生と免震ゴム交換には因果関係を追及する声が上がっている。市議会では社会民主党の布目裕喜雄議員などが「免震ゴム交換時のジャッキアップの工事方法が適正であったか」と市に質問している。複合施設は地下1階と地下2階を免震ゴムで支える複雑な構造となっている。この建物が大地震発生時には水平方向に約40cm動く。免震ゴムの交換は当初、1000基のジャッキを調達して建物全体を持ち上げる計画だった。
 免震ゴムの交換工事は地震発生を想定して、施工時の構造安全性を担保しなければならない。そのため、ジャッキ底面には免震ゴムの変形に追従するすべり支承が必要になる。
 しかし、1000基を集めるには時間がかかり過ぎた。市総務部の担当者は「ジャッキを集め終わるまで、不正免震ゴムを装着したまま待つことになる。早い時期から交換するため、約500基で安全に実行できる工法を、建築構造の専門家に考案してもらった」と説明する。市が依頼した専門家とは、同複合施設の構造設計者である梅沢建築構造研究所の梅沢良三代表だ。

 梅沢代表は外壁のひび割れの要因を「乾燥収縮」であるとし、「構造安全上の問題はない」と断言する。その理由は以下だ。
「ひび割れはコンクリートを打設した階ごとの打ち継ぎ目地を境目として、繰り返し現れている。打ち継ぎ目地の直下階と直上階の外壁では、打設したコンクリートが乾く時間に差が生じる。この差が収縮亀裂を発生させる。今回のひび割れは、この亀裂パターンと一致する。ジャッキアップなどで構造体に外部応力が加わった場合のひび割れは、力学的つり合いが集中する壁面の中央部に現れるため、乾燥収縮によるひび割れとは顕著な差がある」(梅沢代表)
 建物を無理やりジャッキアップすれば、上部構造に損傷を与えかねない。梅沢代表は限られたジャッキで建物に生じるひずみを最小限に抑える工事手法をシミュレーションした。そこで考案したのが、免震ゴムを8列に分け、第一庁舎側から芸術館に向かって順に建物を持ち上げながら、交換していく手順だ。  免震ゴムを交換する列は9mmジャッキアップ。隣り合う2つ先の列までジャッキを設置して軸力に相当する上向きの力を加える。交換位置にある1列だけを持ち上げると、構造部材に過度の力が加わってしまう恐れがあるためだ。梅沢代表は「周囲の軸力を開放することで、部材の変位は2mmほどに抑えた」と話す。
 一方、施工者側は市に対して、「免震ゴム交換のためのジャッキアップ、ダウンを繰り返したことにより、乾燥収縮に伴うひび割れの発生が助長された可能性が否定できない」と説明している。市によると、ひび割れの補修工事については、東洋ゴム工業が自費での工事実施を申し出ているという。(江村英哲)


構造設計者の視点
梅沢良三 梅沢建築構造研究所代表
ひび割れは構造安全上「問題ない」

 長野市第一庁舎・芸術館のひび割れは乾燥収縮によるものだ。構造安全上の問題はない。ただ、放置すると外壁の耐久性を阻害する要因となる。
 通常は0.3mm以上の幅が補修の対象となるが、公共建築であることから0.2mm以上は樹脂材を注入して補修している。ひび割れの数は通常の建物より1.35倍ほど多かった。一般的にコンクリート外壁のひび割れは3m×3mで1本ほどみられるが、今回の発生率は1㎡で0.15本だった。
 発生率の高さは壁面の大きさが反映している。今回は4500㎡に及ぶ壁面を調査している。芸術館の大ホールなどはコンクリート外壁の面積が大きい。大きな皿を焼くとひびが入りやすくなるように、外壁の面積が500~600㎡と広くなると、コンクリートの打ち継ぎ目地を境に、ひび割れが入りやすくなる。
 調査で見られたひび割れのパターンは、コンクリートを打設したタイミングの時間差によって発生する収縮亀裂のパターンに一致する。打ち継ぎ目地を境に同様のパターンが繰り返し現れていた。構造体の力学的つり合いにかかる外部応力によるひび割れとは、発生パターンに顕著な差異がある。
 一部では、免震ゴムの交換工事がひび割れと直結した原因と報じられた。しかし、ジャッキアップはコンクリートの短期の引っ張り応力を超えないようにコントロールしながら施工している。建物に係る相対的な変位は2mmほどに抑えているので、ジャッキアップによって建物に外力が加わったという力学的な原因によるひび割れではない。
 免震ゴムの交換工事は今後も欠かせない。長野市の例は建設中の建物だったため交換工事は順調に進んだ。しかし、営業している病院などは機能を停止することができず、ダクトや配線を盛り替えしながらの交換となる。より難しい現場に対応できる施工手順が不可欠となる。
 今回の交換工事のために、複合施設全ての構造要素を立体的に組み上げた解析モデルで、どの部材にどんな応力が働くかを解析した。コンクリートの短期許容応力度を超過する部材が出ないよう、シミュレーションを繰り返している。「ジャッキアップをすると壁にひび割れが入る」と、世間が疑心暗鬼になる事態は放置できない。 (談)



ソース :
日経アーキテクチュア 2017_3-23
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