東洋構造コンサルタント株式会社 1級建築士事務所
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熊本地震からの宿題  建物の「地下」に死角あり
 建物の損傷が軽微でも、杭が損傷したため結局、取り壊される――。熊本地震では、そうした被害事例が見られた。実はこれまでの大規模地震でも、杭被害は繰り返されてきた。地震後も継続して使用するためには、上部構造の耐震補強だけでは十分ではない。基礎の性能を正確に把握する必要がある。

 震度7の地震に2度見舞われ、甚大な被害を受けた熊本県益城町。2016年12月に決定した復興計画で、町の防災拠点となる役場庁舎の建て替えが決まった。建物自体の被災度判定は「中破」で、補修すれば使える程度だった。だが、地中杭が破損しており、復旧には多額の費用を要することが判明したのだ。
「数年前に外付けフレームによる耐震補強を実施していた。杭の損傷は予想外だった」と益城町総務課管財係の職員は話す。現在、役場庁舎の内側は原則立ち入り禁止に。敷地北側に新設したプレハブの庁舎で業務を行っている。
 町役場庁舎は1980年竣工。鉄筋コンクリート造、3階建てで、約170本のコンクリート杭が支える杭基礎を持つ。益城町によれば、敷地付近の地盤は軟らかい火山灰の層で、その下の硬い溶岩層まで杭が届いていたという。
 役場庁舎の解体と建て替えは、益城町が16年8月に実施した被災度区分判定の結果が決め手となった。耐震補強を施していた上部構造は、耐震壁の一部に幅1~2mm程度の大きなひび割れが生じているものの、柱や梁の損傷は比較的少なく、ひび割れなどの補修を行えば復旧は可能なレベルの損傷だった。
 ただし、上部構造には沈下や柱の傾斜が見られた。そこで基礎周辺を掘削し、杭の健全性を調査したところ、杭頭部や本体部に損傷を受けていることが明らかになった。
 杭の健全性調査を実施した建物の隅3カ所のうち、2カ所で杭頭部に問題があることが目視で確認できた。杭の本体部については、杭を叩いた際の音のはね返り時間で損傷をチェックする非破壊検査(IT試験)を実施。1本が損傷しており、2本も部分的な損傷の疑いがあると分かった。
 こうした結果から、町は「熊本地震と同程度の地震の揺れを受けた場合に安全性を維持するにはかなり問題がある」と判断した。

 なぜ、上部構造は被害が少ないにもかかわらず、杭が大きな被害を受けたのか。
 役場庁舎が立つ敷地は傾斜地で、北側が高く、南側が低い。敷地南側の本棟と北側の議会棟をつなぐ渡り廊下の壁は、本震で大きな亀裂が入っていた。町は、地盤が傾斜方向に流れて南側の地盤がより大きく沈みこんだことが原因とみている。
 敷地一体は盛り土で造成されていた。敷地北側、現在のプレハブ庁舎の隣に立つ益城町社会福祉協議会の建物側の擁壁が損壊。敷地西側にある高さ3~4mの擁壁も、本震を受けて外側へ大きく1mほど押し出されていた。こうしたことから、地盤と基礎との問で大きな相対変位が生じた可能性がある。
 地震による建物被害と地盤との関係に詳しい名古屋大学の護雅史特任教授は、役場庁舎の損傷メカニズムについて「建物と地盤の剛性の違いが関係している」とみる。護持任教授は日本建築学会の地盤基礎系振動小委員会で主査を務めており、熊本地震の発生後は現地の建物被害と地盤との関係を研究している。  建物が地震動を受けて揺れる際に生じる慣性力が地盤に伝わる際、振動エネルギーも同時に逃げて建物の揺れが収まる相互作用が働く。剛性の高い建物が軟弱地盤の上に立っている場合、建物と地盤が一体で揺れやすいので、この作用は大きくなる。
「相互作用によって建物から地盤へ大きな振動エネルギーが伝わる際、杭が壊れたとみている。地盤が柔らかいので建物と地盤との間に隙間ができ、杭頭が一部突出して壊れやすい状態になっていた可能性もある」(護持任教授)
 建物に比べて杭の水平耐力が低いと、地盤からの外力が建物に伝わる前に杭が先に損傷しやすい。役場庁舎については、杭が先に壊れたために建物に伝わる外力が小さくなり、建物の被害が軽微に抑えられた可能性があるという。

 益城町役場で見られた杭被害は、熊本地震で初めて明らかになったことではない。東日本大震災でも、新耐震基準で設計された建築物や上部構造が耐震補強された建築物が、杭の損傷によって解体せざるを得なくなった事例があった。しかし、杭の損傷メカニズムは、その検証に地下を掘る必要があり、未解明な点も多い。杭の耐震設計の研究は十分に進んでいないのが現状だ。
「表層地盤と建物の共振を考慮して、杭を強く設計するのが望ましい。現行基準では、上部構造と異なり基礎構造の2次設計は求められていないが、本来は導入すべきだ」と護持任教授は話す。
 建物自体が無事で人命に危害はなくとも、杭の損傷が大きい場合は建て替えや補修による費用負担が大きくなる。熊本地震での被害事例が示すように、地震後の継続使用性の確保のための耐震設計法や耐震補強法が求められている。(江村英哲、橋本かをり)

耐震構造の専門家に聞く
護 雅史  名古屋大学特任教授
杭の設計基準の整備を

 杭の耐震設計についてはまだまだ研究が進んでいない。建物と地盤との剛性との大小や根入れの深さによっては、建物自体の被害が小さくても杭が大きな被害を受けることもある。こうした場合に、杭が全体の本数のうち、どの程度壊れると危険なのかや、元の杭を利用して増し杭してもよいのかについての判断基準はまだない。  杭設計の難しさは、検証しようにも掘ってみないと分からない点にある。基礎の傾斜を測ることはあっても、掘って杭の状態を確かめることばほとんどない。杭の状態をモニタノングする手法も考えられるが、10年もたてば地中で劣化してしまうだろう。  兵庫耐震工学研究センターの3次元振動台実験施設(E-ディフェンス)で杭破壊のシミュレーションを行うなど研究は始まったものの、そのデータを生かした杭の設計基準の整備はこれからといえる。(談)



ソース :
日経アーキテクチュア 2017_4-13
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