東洋構造コンサルタント株式会社 1級建築士事務所
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過労自殺が伝えた「新国立」の現実
 2019年11月末の完成を予定する新国立競技場。整備計画のスケジュールは、関係者各所からの厳しい時間的制約を受けてきた。そのプレッシャーは、施工管理を任されていた新入社員にのしかかっていた。

 新国立競技場の地盤改良工事の施工管理業務に従事していた男性(当時23歳)が17年3月2日に失踪し、4月15日に長野県で遺体で発見されていたことが、遺族の代理人である川人法律事務所の川人博弁護士が7月20日に厚生労働省で記者会見したことで、明らかになった。
 男性は自筆の短い遺書を残していた。3月2日付で「突然このような形をとってしまい、もうしわけございません。身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした(後略)」と書き記していた。警察などの関係機関は自殺と判断している。
 男性の遺族である両親は、過酷な業務が自殺の原因であると考え、7月12日に上野労働基準監督署に労災認定を申請した。現在は申請先を新国立競技場の建設現場に近い新宿労基署に変更している。
 塩崎恭久厚労相は7月25日の会見で、「元請け、下請け企業すべてについて労働時間の実態を調査のうえで、問題が認められた場合には是正に向けて厳しく指導していきたい」と発言し、新国立競技場の建設現場を実態調査する考えを示した。
 政府は3月に「働き方改革実行計画」で時間外労働の限度を示したが、建設業は適用に5年間の猶予期間を設けることにした。日本建設業連合会は7月26日、時間外労働の適正化に向けた自主規制を決定。改正労働基準法の施行後5年間で、段階的に時間外労働の上限を強化する「日建連基準」を制定するとした。

 男性の勤めていた都内の建設会社は、一次下請け会社として施工を担っていた。同社は「業務が過重であったこと」「自殺が労災である可能性が高いこと」を認めている。実際、失踪した3月2日より前の1カ月は、時間外労働時間が211時間56分となっており、徹夜での業務は3回に及んでいた。
 男性が新国立競技場の建設現場で地盤改良工事の施工管理業務に従事したのは、16年12月17日から。地盤改良は整備スケジュールでは最も早い工程の1つ。工期は17年6月30日までだった。男性の勤めていた建設会社によると、実際の完了日は7月10日だったという。
 遺族が発表した手記によると、予定通りに重機が手配できず、1月終わりには工期が遅れていたという。重機の準備が整い始めた2月からは、遅れを取り戻すべく時間外労働時間が激増した。遺族は手記で「朝5時ごろに出かけて行き、帰宅するのは深夜だった」と述べている。
 入社1年目の男性は5人ほどのチームの一員だった。勤めていた建設会社は「写真整理や日報作成など施工管理の一部が主な担当だった」と説明する。川人弁護士は「チーム各員はそれぞれ多忙で、新入社員の男性を気に掛けられなかった」と話す。
 男性の残業時間が約200時間だった2月は、睡眠時間が2~3時間しか確保できていなかったようだ。極度の長時間労働や業務上のストレスが原因となってうつ病などの精神障害を発病し、自殺に至ったと川人弁護士は推定している。
 新国立競技場の作業時間はこれまでも午前8時から午後6暗までを基本としてきた。今回の事件を受けて、元請けの大成建設では、5月中旬から作業員詰所を午後8時に閉所するルールを新たに設けた。
 大成建設は、下請け企業の従業員に対して直接的な指示や管理ができない。大成建設は「お亡くなりになられた故人のご冥福をお祈りするとともに、元請けとして専門工事会社に対し、今後も労働法令を含む法令順守の徹底について指導し、専門工事会社とともに過重労働の発生の防止に努めてまいります」とのコメントを発表した。(江村英哲)

遺族側代理人に聞く
川人博 弁護士
「新国立」工期厳守の犠牲者だ

 新国立競技場の地盤改良工事を請け負った建設会社は、約5人のチームで業務に従事していた。チームは一体で動くというよりも、持ち場で独自で働いていたようだ。亡くなった男性はまだ入社1年目だったが、チーム内の年長者も多忙で、指導するなどの余裕はなかった。
 土壌改良は特殊な作業ではなかった。しかし、重機を予定通り調達できず、1月終わりごろには工期が遅れた。遅れを取り戻すため、2月が極端に忙しくなったとみている。今回の事件については現場では全く知られておらず、ごく少数の関係者だけに伝わっていた。絶えず新しい作業員が入ってくるから、こうした事件は発覚しにくくなる。
 新国立競技場の建設現場に詳しい人物からは、「現場で働いている作業員には不安を持つ者が少なくない」と聞いている。例えば、新規に現場に入った作業員には労働安全衛生法に基づいた教育を実施する。開始時間は朝6時30分からで、「集合時間が早すぎる」と苦情が出ていた。作業が遅れれば工期が圧迫され多くの作業員が睡眠不足となる。「疲れから、労働災害が発生するのでは」という不安が現場にはあると聞く。
 男性の勤めていた建設会社は、極度の長時間労働があったことを認めている。遺族側に謝罪して、改善措置を取るとのことだ。当初、遺族側に「時間外労働は月80時間以内だった」と説明していた。労働基準法36条で定める「36協定」(時間外労働は1カ月、原則45時間が上限。特別の場合は80時間を上限とする)の範囲に収まるような記録としていた。
 しかし、男性の両親は息子が早朝に出勤して深夜に帰宅する様子を見ている。調査の結果、男性の時間外労働の長さは出勤簿の時間を付け控えるというレベルではなかった。指示 の有無は分からないが、全く実態に合わない数字だった。
 一般的に建設業界の時間外労働の長さはひどい。政府は3月に「働き方改革実行計画」で、時間外労働の限度を示した。しかし、建設業と運送業については、適用に5年間の猶予期間を設けている。そのうえ建設業界は人手不足が深刻で、若い労働力は常に不足している。現場で長時間労働がはびこるのは当たり前だ。
 新国立競技場の事例は、完成までの時間が限られているので、特に作業員への重圧が大きい。そうした意味では特別に厳しい現場だと言える。整備計画が白紙撤回されて仕切り直したことで、スケジュールは一段と厳しくなった。もし、1年以上前に工事が発注されていたなら、男性が亡くなることはなかっただろう。
 直接的な発注者は日本スポーツ振興センター(JSC)だが、背景には東京五輪・パラリンピック大会組織委員会や内閣府、東京都など様々な関係者との調整がある。施工スケジュールがタイトなのは、建設会社のせいだけではなく、発注者側の責任であることを自覚してもらわなければならない。(談)


ソース :
日経アーキテクチュア 2017_8-10
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