東洋構造コンサルタント株式会社 1級建築士事務所
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地盤面誤認は監理者にも責任
 設計より建物が約30cm低く完成したことは、工事監理者の「重大な契約違反」か――。公共施設の躯体工事の完了後に発覚したミスを巡り、そんな裁判が続いている。近く、2審が大阪高等裁判所で始まる。

 高さ約80cmの塀で駐車場を囲った御坊警察署(和歌山県御坊市)。塀は南海トラフを震源とする巨大地震で懸念される浸水に備えたものだ。水が迫った際は塀の出入り口の防潮扉を立ち上げ、庁舎のエントランスに止水板を取り付ける。
 2014年4月に正式供用が始まった。外見からはほとんど分からないが、この施設では施工の際、設計図書に記された地盤面(設計GL)を見誤るミスが発生、警察署庁舎は想定より約30cm低く完成した。誤ったレベルにそろえたため、裏手の職員宿舎も約20cm低く完成した。塀はこれらのミスを受け、発注者の和歌山県が施工者に指示して設置したものだ。
 県は施設完成前の13年3月、ミスの見逃しは工事監理者の重大な契約違反に当たるとして、工事途中で契約を解除した。工事監理者は13年11月、県の処分は不当だとして約7120万円の損害賠償を求め、1蕃の和歌山地方裁判所に提訴した。
 和歌山地裁は18年2月27日、原告に重大な契約違反があったとする判決を下した。原告と被告の双方が判決を不服として大阪高等裁判所に控訴、現在も係争中だ。

 庁舎は3階建ての鉄筋コンクリート(RC)造で、延べ面積2644㎡。工事は三洋建設(和歌山県有田川町)が担当した。工事費は約4億8000万円。職員宿舎は4階建てのRC造で、延べ面積1146㎡。古部組(御坊市)が担当した。工事費は約1億9000万円だ。県は塀などの追加工事を条件として建物の引き渡しに応じたが、2社の入札参加資格を3カ月間停止した。
 一方で県は、工事監理を担当した一級建築士の長尾正剛氏について、監理料の支払いを拒否。入札参加資格の停止期間は2年間とした。
「ミスの原因は施工者の単純ミス。だが約20cmから30cmの誤りは補修の必要がないささいなもので、現実に建物はきちんと使えている。建て替えを余儀なくされるほどの欠陥ではないのに、私だけが大きなペナルティーを負った」。長尾氏はそう憤る。
 長尾氏は11年度に県と工事監理単独の委託契約を締結した。他の設計者が納品した設計図書に基づき、11年度から約30カ月に及ぶ建て替え工事をチェックするものだ。まず仮設庁舎を建築、その後、新庁舎、職員宿舎を建てる計画だった。監理料は約2600万円。県は常駐を求めておらず、工程ごとにポイントを絞った「重点監理」を実施する契約だった。

 長尾氏は1看で、警察署工事において仮設庁舎の工事も含めて延べ3500時間以上にわたって業務を遂行したと主張。不払い報酬や不当な資格停止処分による損害など、約7120万円の賠償を求めていた。
 和歌山地裁が下した1審判決は、「債務不履行の程度が軽微であるとは到底いえない」として、県による契約解除は有効で、資格停止処分に違法はないとした。一方、長尾氏の主張をくみ入れ、契約解除まで業務は遂行されていたとして、県に約1200万円の支払いを命じた。前記の通り、双方が判決を不服として控訴した。
 県は本誌の取材に対し、「裁判所は契約解除を認めたが、一部の報酬には請求権があるとした。県としてはこの請求権もないと考えている」(公共建築課)と説明した。
 長尾氏側が争点と捉えているのは「設計GLは設計上で重要な事項ではなく、見逃しは重大な契約違反にも当たらない」というものだ。
 設計GLが設計上の重要事項かについて、県は敷地付近で津波による浸水が予想されていること、施設が防災拠点であることなどから、設計GLは重要な事項に当たると主張。1審はこの点を認めて、長尾氏の見逃しは県が委託契約を一方的に解除するだけの正当な理由だとした。
 だが裁判では、実施設計を担当した建築士が「設計GLは旧庁舎の高さに合わせただけで、県から特に浸水対策の指示があったわけではない」と証言。長尾氏も「着工時点で浸水予想は聞かされていなかった。完成目前になって浸水ハザードマップの公開がささやかれ、発注担当部局が慌てだした」と話す。
 また見逃しが重大な契約違反ではないとの論点について、長尾氏は「国土交通省が示す工事監理ガイドラインは、目視や建設会社担当者への聴取などを合理的な業務方法として認めている。工事監理者には、測量結果を疑って自分で測量をやり直すほどの業務内容は求められていない」と主張する。
 長尾氏の代理人である豊田泰史弁護士(あすか綜合法律事務所)は、「県は施工暇庇については補修や追加工事での対処を認めたのに、工事監理に限っては追加対応が許されないと主張している。工事監理の目的はミスを未然に防ぐことにあるが、結果的に起こったミスの責任範囲は不明確だ」と語る。
 2審の審理は18年6月には始まる見通しだ。(池谷和浩=ライター)


県は完成直前に契約解除を通告、支払いを停止した
2011年7月 原告と県が第三者監理の委託契約を締結。2棟から成る警察署施設の工事について、原告が経営する設計事務所1社が工事監理を実施する内容だ。期間は3年度で、ポイントを絞った「重点監理」を実施する契約だった。3年度の監理料は合計で約2600万円
12年1月初頭 訴外の建設会社が工事に着手
12年1月中旬 建設会社が建物予定地の地縄張りを開始。この際、建設会社が設計GLを見誤った。原告は測量作業の当初には立ち会ったが、高さレベルの測量には立ち会っておらず、墨打ち位置が基準点から離れていてミスに気付けなかった
12年12月4日 完成が近づき、仮囲いが撤去される。この時点での測量で2つの建物が設計の想定より低く建っていたことが発覚した。設計との誤差は警察署庁舎でマイナス29cm、隣接する職員宿舎でマイナス19cmだった
12年12月24日 県が排水計画の修正、止水板や防潮扉の追加などを指示
13年2月 県が職員宿舎の計画変更通知を実施
13年3月8日 県が原告に工事監理委託契約の解除を通告、報酬の支払いを停止した。また契約解除により支払済みの報酬は返還されるべきで、違約金も発生したと主張。原告が担当した県の他のプロジェクトの報酬660万円との相殺を意思表示した
13年3月12日 県が原告の入札参加資格を2年間停止すると発表。担当した建設会社の停止期間は3カ月だった
13年3月15日 職員宿舎の本体工事が完了
13年3月末 和歌山県が南海トラフを震源とする巨大地震における浸水予想を公表
13年6月26日まで 排水管への逆止弁追加、敷地全体を囲う塀と防潮扉の新設など、建築会社による追加工事が完了
13年8月12日 県が警察署庁舎の計画変更通知を実施
13年11月6日 原告が県を相手取って和歌山地方裁判所に提訴。請求額は約7120万円
14年4月 施設が正式に竣工
18年2月27日 1審判決。裁判所は県の契約解除自体は有効で、資格停止措置に違法性はないとした一方、原告が工事監理を実施した期間の監理料の請求は認め、県に約1200万円の支払いを命じた。この後、原告と県の双方が控訴した
事件の経緯。原告は事態収拾のため、排水計画のやり直しや防潮扉の追加などの設計を買って出たが、県は3年度に及ぶ契約すべてを解除すると通告。違約金や支払い済みの監理料は県の債権に当たるとして、他のプロジェクトの設計料や調査料も支払わなかった(資料:裁判資料を基に本誌が作成)


裁判所は契約が部分的に解除されたと判断
原告の請求内容 請求額
裁判所の判断(1審) 認容額
契約解除までの間の監理料のうち未払い分 1160万円 原告は県による契約解除までの間に工事監理業務に従事しており、出来高に相応する監理料は1300万円。県は11年度に500万円を支払ったので、原告はそれを除く額を請求できる 800万円
県が他のプロジェクトの報酬から相殺した支払い済み監理料の一部や違約金の返還 660万円 違約金260万円との相殺のみが有効 400万円
県に帰責事由がある契約解除による損害 940万円 契約解除は有効で、帰責事由は原告にある
不当な資格停止措置による逸失利益および慰謝料 4360万円 資格停止措置は、社会通念に照らし明らかに相当性を逸脱した違法なものとまではいえない
合計 7120万円 合計 1200万円
判決の概要。原告は契約解除により国家賠償法に基づく逸失利益の補償や違約金なども求めたが、裁判所は契約は部分的に解除されたと判断し、出来高に対応する時間分の監理料のみ請求を認めた(資料:判決文を基に本誌が作成)


ソース :
日経アーキテクチュア 2018_5-10
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