改正建築物省エネ法は従来、大規模(2000㎡以上)の非住宅に省エネ基準の適合義務を課してきた。4月1日の完全施行で、この適合義務が中規模非住宅(300㎡以上2000㎡未満)に拡大する。小規模建築物(300㎡未満)では適合は努力義務となったが、建築主への説明が義務付けられた。
確認申請での適合義務は、エネルギー消費性能確保計画の審査(省エネ適判)を必須とするものだ。
審査は登録建築物エネルギー消費性能判定機関(省エネ判定機関)が担い、建築確認に並行して申請する必要がある。商業施設などで確認申請時で設備が確定しない場合、完了検査までに計画変更する必要もある。
中規模の建築物は着工数が大規模に比べて4倍に達する。だが国土交通省は完全施行でも大きな混乱は生じない、とみてる。「先行して始まった届け出義務制度により、17年度時点で中規模非住宅の省エネ基準適合率は91%に達している」(国交省住宅生産課建築環境企画室の上野翔平課長補佐)ためだ。
法改正で法令制限、法定責任が大きく変更となる場合、国交省は従来、全国で参加者数十万人規模の講習会を開いてきた。だが現在も続くコロナ禍により、改正建築物省エネ法の講習は完全に「オンライン講習」へ切り替えた。すでに他の講習会と同等の視聴者数を記録しているという。まだオンライン講習を視聴していない建築士は、ぜひ国土交通省ウェブサイトの「建築物省エネ法」ページを確認しておきたい。
300㎡未満の小規模建築物における説明義務は、建物完成までに行うものだ。設計上、計画が省エネ基準に適合しているかを説明するもので、原則として実施が必要となる。建築主が「説明は不要」だと書面で表明した場合に限り、この説明は行わなくてもよいとされている。
基準への適合は努力義務だが、建築士が独占業務として説明を行う以上、少なくとも外皮性能や一次エネルギー消費量などは計算し、適否を確認する必要がある。
説明に当たっては、省エネ基準適合に関する説明書を交付する義務もある。これは建築士事務所における図書の保存義務(15年間)の対象だ。国交省は「現行法でも、テレビ会議システムによる説明は可能。説明書は書面(紙の書類)とする必要があるが、デジタルデータでも可能とする方向で検討中だ。」
(上野課長補佐)と説明している。
完全施行の影響はまだ、完全に見通せないのが現状だ。日本建築士会連合会はリスクが拡大するとみて、建築士賠償責任保証制度(けんばい)のオプション契約に新たに改正建築物省エネ法に関する損害をカバーする保険商品を設定、募集を開始した。計算ミスで省エネ基準不適合となった場合、本来より高い基準の性能を説明してしまっていた場合などの是正費用について、1事故あたり最大3000万円(免責額10万円)を支払う。省エネ計算など新制度に不安が残る場合、こうしたカバーを図るのも有効だ。
(桑原豊=本誌、池谷和浩=ライター)